バーバラ・レイとレイキの起源


 『レイキ療法』(昭和62年11月20日 たま出版)の中で、著者のバーバラ・レイは、以下のような主張をしています。

○レイキの起源は、「多分八千年以上も昔の古代チベット」にあった
○それは、後にインド・エジプト・ギリシャ・ローマ、そして中国・日本に伝えられた
○ウスイ博士は、「古代のテキストの中に」「法式として保存されていた、この特別な知識の秘密」を「再発見」した
○「この法式は、一連のシンボルに基づいて」いるものであった
○文献は、「サンスクリット」で書かれたものであった
○ウスイ博士によるこの「再発見」は「おおよそ十九世紀中頃」のことであった

 ずいぶんと荒唐無稽なことを言っているように、ぼくには思えるのですが、いったいこのバーバラ・レイ博士なる人物は何者なのでしょう?
 有限会社ヴォルテックスが出している『レイキ読本』の18ページには、次のようにあります。

フィリス・L・フルモト女史が創始したレイキ・アライアンスと、文化人類学者でもあるバーバラ・W・レイ博士が創始したラディアンス・テクニック協会が……(以下略)

 そうか、文化人類学者か。マーガレット・ミードの同業者か−−と思いきや、著書の中に書いてあるのは、だいぶイメージの違うことです。

 私自身のコースの勉強は古典文学、近東の古代文明、ルネッサンス史、芸術史、現代芸術史と、人間の知的、文化的、科学的発展を近代まで追跡する種々の人文科学のコースを含んでいました。
  『レイキ療法』 P.215

 バーバラ・レイ博士の主張に戻ります。
 まず、臼井甕男先生は1865年の生まれですから、仮にレイキを「再発見」なさったとしても、それは「十九世紀中頃」などではありません。ぼくたちは、遠い異国の人間ではないので、このことを確信をもって言うことが出来ます。上のヴォルテックスも、「古代チベット」は踏襲しながらも、以下のように書いています。

 レイキとは古代チベットを起源とするヒーリング・自己成長のテクニックです。宇宙に存在する生命エネルギーを活用し、心身を活性化し、調和させる方法です。
 19世紀の終わりに臼井甕男(ウスイ・ミカオ)先生が鞍馬山にて21日間に及ぶ断食・瞑想修行により感得したと伝えられています。
  (http://www.happynet.or.jp/vortex/)

 ただし、レイキが鞍馬山での「修行」によって「感得」されたものならば、「古代チベットを起源とする」理由がなくなります。ヴォルテックスの主張は、意味をなしていませんね。何も考えずに、いい加減な情報を羅列しているから、こんな文章になっているのでしょう。「古代チベット」なんて書きながら、それが具体的に(B.C.にしろA.D.にしろ)何年頃のことであるのか、まったく念頭になかっただろうと私は思いますね。
 バーバラ・レイ博士の方は(Ph.Dであるだけあって?)、同じ間違うにしても論理的な整合性があります。ウスイ博士が、古代の文献の中に「法式」を見出したのがレイキだと言っているのですから。
 しかし、そんな文献が存在したという証拠は、ありません。臼井先生自身が、独力で得たものだと言っています。

 西欧でレイキを実践している人の中には、イエス・キリストがレイキ・プラクティショナーであったかどうかを問題にしている人もいます。
 バーバラ・レイの「古代チベット」説と同様の間違いだと私は思います。どうも集合の論理というものが、理解できていないのではないでしょうか。

 「レイキ療法」は「手あて・手かざし療法(面倒なので以下「手あて療法」とします)」の一種です。これは、

レイキは「手あて療法」だが「手あて療法」はレイキではない
 (=レイキではない「手あて療法」も存在する)

ということを意味します。つまり、キリストが「手あて療法」の実践者だったとしても、そのことがそのまま「キリストはレイキ実践者であった」ということにはならないのが、理の当然というものです。

 そういった次第で、仮に「古代チベット」にレイキと類似した「手あて療法」が存在していたとしても、それがレイキの「起源」であるとただちに言うことはできません。そう言えるためには、レイキの側の資料が、レイキがその成立にあたって「古代チベット」の療法を参照にした、ということを裏づけている必要があります。しかしながら、私の知る限りそんな資料はないし、バーバラ・レイもそうした資料の提示など行なっていないのです。

 さて、今度は歴史にそくした検証を行なってみます。
 まず、「古代チベット」とは何か、ということです。八千年以上昔に、チベットに高度な文明があったという証拠はありません。そして、その文明の知識がインドやエジプトに伝わっていったという証拠もないのです。レイ博士の主張は、世界史の常識とはかけ離れたものであると言わねばなりません。
 何しろ、チベット文字が出来たのは七世紀のことです。サンスクリットの仏典が、チベット語に翻訳されたという歴史的事実はありますが、逆に古代のチベット文献がサンスクリットに翻訳されたという証拠はないんですね。

 バーバラ・レイによると

○「この法式は、一連のシンボルに基づいて」いるものであった

ということですが、これをウスイ博士は、サンスクリットの文献の中に発見したのだそうです。
 レイキの、現在までに伝わっている4つのシンボルは、そのうちの3つまでが、明らかに「漢字」と「サンスクリット」を構成要素としています。八千年前に存在したかも知れないチベットの文字でもなければ、七世紀以降のチベット文字でもありません。
 サンスクリットの文献の中に、なぜ漢字が登場するのか、私には全く不可解ですが、4つのシンボルのすべてが「古代チベット」起源だなどというのは、既に不可解を通り越しています。

 セサミ・ストリートに出てきた日本ではありませんが、バーバラ・レイの頭の中では、漢字も梵字もチベット文字も全部同じものなんでしょうかね。古代文明を研究した学者だというんですけどねえ。

 レイキ療法は、大正時代の日本で始められた「テクニック」である。

 私は、これで充分だと思います。
 インスタント・ラーメンの宣伝ではないのですから、「悠久の歴史」を持ち出しても、冗談にはなりません。八千年前の「古代チベット」を持ち出すのでは、かえって眉につばを付けさせる効果しかないのではないかと、考える次第です。


 附録

 現在あまり手に入りやすい本ではありませんから、ついでに少々「引用」しますね。

 このページ冒頭の箇条書は、バーバラ・レイ博士の著書の中「レイキの起源」と題された章の91ページから98ページにかけてを要約したものです。かぎかっこで括った部分は、もちろん引用。
 巻末に載せられた「著者の自伝的素描」という文章の一部が、ちょうどうまい具合いに、このあたりのまとめになっていますので、以下に引用しておきます。

一九七八年、私はレイキの基本コースをとりました。私の専門の学術的背景ゆえに、私は容易にレイキを、宇宙エネルギーをとらえ、この自然なエネルギーを調整し治癒し完全にし悟りの境地達成のために適用する古代の技術である、と見わけることができました。この技術の起源は、多分八千年以上も昔の古代チベットに見られるでしょう。この知識は結局、インド、中国と日本へ、同じくエジプト、ギリシャとローマへともたらされました。
  P.217

一九七九年の終わりごろ、西欧でその知識に通暁していた唯一の人物、ハワヨ・タカタから、真正のウスイ式レイキ療法を構成する七つのディグリーすべてと、七段階のアチューンメントすべての指導を私が受けたのです。私はハワヨ・タカタ夫人がこのユニークな体系を完全な形で信頼し与えた唯一の人間です。したがって、その体系を完全な姿のままで保存し、純粋で光り輝く力をそっくりそのままの完全な形で、つまり薄められ汚染されないようにするのが、私に課せられた責任です。
  P.65

  『レイキ療法』バーバラ・レイ 三井三重子訳 昭和62年11月20日 たま出版

 上のように考えたが故に、他の21人とは行動をともにしなかったのですね。


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